新井碧個展「ボーダー・ストローク」

新井碧個展「ボーダー・ストローク」

わたしが絵を描くと浮かび上がる形態は、あるときは植物のようであったり、あるときは人体のようであったり、はたまた動物のようであったり、とにかく有機的である。揺れ動く、移りゆく瞬間の痕跡としての絵画を標榜するわたしは、絵に要請されるままに筆を動かす。完成するときまで、そのシルエットが何であるかはわからない。なにかになってもいいし、なににもならなくてもいいし、なにかになりかけている状態でもいい。
その時間は、ことばやかたちになる手前のもの、名付けられたり分類される前の、曖昧模糊とした漠然そのものを探るような行為に近い。そんな制作のさなか、最近読んだ書籍の一節が思い浮かぶ。

”人は自分があらかじめ何者かで、対象があらかじめ何者かで在るから、愛するのではない。愛は自我形成と対象形成の同時進行性につけられた名称である。”(1)

自己と他者とのあいだ。その距離や温度などについて、認識の手前の境界を探るようにブラッシュストロークを重ねる。思うに、愛というものは状態であり、安易に指し示せるものでもなく、常に形や色を変え続ける流動性を帯び、また他者に寄せては返ってくる波のような、そのあたたかさそのもののことなのではないだろうか。
アイデンティティと呼ばれる、自己への認識というものもまた、愛と似ているように思う。それもまた状態であり、安易に指し示せるものでもなく、常に形や色を変え続け流動的で、ただ一点、愛のようにトレードすることはできず、自己に帰結していく。
どうしたって変えられない、変えられたくない、自分が大事にしたいもの。苦痛の伴う鋳型を正当に拒み、「ただこのように存在し続けていきたい」という未来に対しての眼差しそのものが自己への尊厳であり、誇りなのではないだろうか。

画面上に浮かび上がる形態は、重なっては消え、再び立ち表れるなどを繰り返し、揺らぎ移ろい続ける。そうやってわたしは作品を完成へと向かわせると同時に、世界に対して自己を記述していく。

(1)竹村和子『愛について アイデンティティと欲望の政治学』岩波書店、2021年、P.13

ART WORK

  • WALL_shinjuku silhouette #roses2
    Vendor:
    新井 碧
    Regular price
    ¥478,500
    Sale price
    ¥478,500
    Regular price
  • WALL_shinjuku silhouette #blooming
    Vendor:
    新井 碧
    Regular price
    ¥191,400
    Sale price
    ¥191,400
    Regular price
  • WALL_shinjuku silhouette #a body5
    Vendor:
    新井 碧
    Regular price
    ¥385,000
    Sale price
    ¥385,000
    Regular price
  • WALL_shinjuku silhouette #a body4
    Vendor:
    新井 碧
    Regular price
    ¥478,500
    Sale price
    ¥478,500
    Regular price
RuffRuff App RuffRuff App by Tsun